犯罪行為をして起訴された場合、「執行猶予」がつくかつかないかでその後の人生が大きく変わってきます。
執行猶予がつくと以前と同様に社会内で生活を続けられますが、執行猶予がつかなかったら刑務所に行かなければならないからです。
本人の運命を大きく左右する執行猶予。どのような場合に認められるのか、またどうやったら獲得できるのかなど、名古屋の弁護士が解説していきます。
このページの目次
1.執行猶予とは
執行猶予とは、刑罰を言い渡されても実際には執行されず、適用を待ってもらえる制度です。
執行猶予には「期間」がもうけられ、その間に特に問題を起こさなければ刑罰を免除してもらえます。
つまり執行猶予をつけてもらうことができれば、その後一定期間トラブルを起こさない限り刑罰を受けずに済みます。
2.執行猶予制度の目的
執行猶予制度の目的は、犯罪を犯した人を社会内で更生させることです。刑務所に収監してしまうと本人の人生に対する影響も大きくなりますし、犯罪の内容がさほど大きくない場合にはいきなり収監するのが不合理と考えられるケースもあります。そのようなときには一定の猶予期間を与え、その間に本人がまじめに生活して更生できればあえて刑罰を与えなくて良いとします。
3.執行猶予でも前科はつく
執行猶予判決を受けた場合、現実には刑務所に行く必要がありません。判決が出たら刑事手続きから解放されて、ほぼ従前と同じように生活ができます。本人にしてみると「何事もなかった」かのように感じるかもしれません。
しかし執行猶予つきであっても有罪判決は有罪判決です。言い渡されれば一生消えない前科がつきます。
2度目の犯罪を犯したときには前回の犯行内容や刑罰を調べられて、今度は執行猶予を認めてもらえず実刑になってしまう可能性が高くなります。
執行猶予つき判決を受けた方は安心するのではなく、通常の人以上に犯罪に手を染めてしまわないよう注意して生活しなければなりません。
4.執行猶予がつく条件
どのような犯罪でも執行猶予をつけてもらえるわけではありません。認められるのは比較的軽い犯罪のみです。殺人などの重罪で執行猶予が認められるのは明らかに不合理だからです。国民の誰も納得しないでしょうし、重罪を犯した犯人にはきちんと刑罰を受けさせる必要があります。以下で執行猶予がつく条件をみていきましょう。
4-1.執行猶予がつく刑罰
- 3年以下の懲役または禁固、50万円以下の罰金刑
執行猶予をつけてもらえるのは「3年以下の懲役または禁固」あるいは「50万円以下の罰金刑」が下されるケースに限られます。重罪で3年を超える懲役や禁固刑を言い渡される場合、執行猶予をつけてもらえる可能性はありません。
また法律上は罰金刑でも執行猶予がつく可能性がありますが、現実には罰金刑で執行猶予がつくケースは稀です。多くの場合、禁固や懲役刑に数年の執行猶予がつきます。
4-2.前科との関係
前科との関係では以下のような制限があります。
- 前に禁錮以上の刑罰を受けたことがない
- 前に禁錮以上の刑罰を受けて執行猶予期間が終わってから禁固以上の刑罰を受けずに5年が経過した
- 前に禁固以上の刑罰を受けて執行を終了したときから禁固以上の刑罰を受けずに5年が経過した
5.執行猶予の期間
執行猶予をつけられる場合「猶予期間」がもうけられます。法律では「1年以上5年以下」とされています(刑法25条)。現実には3年~5年程度の期間を定められるケースが多数です。
またもともとの刑罰との関係では、言い渡された刑罰より長くなるのが通常です。たとえば適用される刑罰が懲役1年半なら執行猶予期間が3年などとなります。
執行猶予期間がもともとの刑罰より短くなるケースはほとんどありません。
6.執行猶予の取消
執行猶予をつけてもらえても、取り消される可能生があるので要注意です。
6-1.必ず取り消されるケース
以下のような場合、必ず執行猶予が取り消されるので、刑務所に行かねばなりません。
- 執行猶予期間中に別の罪を犯して禁錮以上の刑罰を受け、その刑について執行猶予を受けられなかったとき
- 執行猶予の言渡し前に犯した別の罪について禁錮以上の刑罰が適用され、その刑について執行猶予を受けられなかった
- 執行猶予の言渡し前に別の罪で禁錮以上の刑罰を受けたことが発覚した
特に重要なのは「執行猶予中の別の犯罪」です。執行猶予中に別の犯罪を犯して禁固刑や懲役刑の実刑になると執行猶予された刑罰と合わせた期間刑務所に行かねばならないので、かなり長期間の刑務所生活となってしまいます。
6-2.任意的に取り消されるケース
以下のような場合、必ずではありませんが裁判官の裁量によって執行猶予が取り消される可能性があります。
- 執行猶予期間中に別の罪を犯し、罰金刑を受けた
- 執行猶予中、保護観察に付せられたのに遵守事項を守らず悪質な場合
- 執行猶予の言渡し前に別の罪で禁錮以上の刑罰が適用されて執行猶予を受けたことが発覚した
執行猶予中に罰金刑を受けたり保護司に暴力を振るったりすると、執行猶予を取り消される可能性があるので要注意です。
7.執行猶予の獲得方法
執行猶予判決を獲得するには、なるべく被疑者の「情状」を良くすることが有効です。以下のような事情があれば執行猶予がつきやすくなります。
- 初犯
- 犯行が悪質でない
- 反省している
- 被害者と示談が成立している
- 家族による監督が期待できる
- 社会ないで更生できる環境が整っている
執行猶予判決を得たいなら、上記のような事情を丁寧に主張・立証していく必要があります。
また初犯で犯罪事実自体も重大でなく態様が悪質でない場合、執行猶予以前に「不起訴」にしてもらえる可能性も十分にあります。そうでなくても被害者と示談を成立させれば不起訴や執行猶予判決などの軽い処分にしてもらえる可能性が大きく高まります。
被疑者や被告人となった方ご本人が執行猶予に向けた活動をしていくのは困難です。犯罪の疑いをかけられてなるべく前科をつけたくない、執行猶予判決にしてほしい方は、お早めに弁護士までご相談下さい。